大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和35年(ム)7号 判決

再審原告(本訴被控訴人) 村橋進

再審被告(本訴控訴人) 宮川義男

主文

福岡高等裁判所が昭和二十六年(ネ)第四九二号土地建物所有権移転登記手続請求控訴事件について昭和二十八年五月七日言渡した判決を取消す。

右控訴事件の控訴を棄却する。

再審被告の新請求をいずれも棄却する。

再審被告は再審原告に対し別紙目録記載の土地、建物につき昭和三十年十月二十日熊本地方法務局八代支局受付第八〇六三号を以てなされた昭和二十四年十二月二十三日付売買による所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

再審並びに控訴費用は全部再審被告の負担とする。

事実

一、再審の請求について、

再審原告訴訟代理人は再審の請求趣旨として主文第一項同旨の判決を求めその再審事由として、

(一)  再審被告が本案(福岡高等裁判所昭和二十六年(ネ)第四九二号、土地建物所有権移転登記手続請求控訴事件)について昭和二十八年五月七日「原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し別紙目録記載の土地、建物につき昭和二十四年十二月二十三日付売買による所有権移転登記手続をしなければならない、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との勝訴判決を受けたので再審原告において上告したところ昭和三十年六月三日上告棄却となり、控訴審における前記判決が確定せられた。

(二)  ところが本案において再審被告が陳述した請求原因の一つは再審原告が昭和二十四年十二月七日より同月二十三日までの間再審被告より借受けた五口の合計金二万七千円の債務担保のため昭和二十四年十二月二十三日再審原告所有の別紙目録記載の土地、建物を再審被告に売渡担保となし、昭和二十五年五月三十日までに右借用金を返済しない場合右不動産は直ちに再審被告の所有となり再審原告は再審被告にその所有権移転登記手続をなすことを約したところ再審原告が右期限までに借用金を弁済しないので前記約定に従い右不動産の所有権移転登記手続を求めるというのであつた。再審原告は昭和二十四年十二月二十五日右借用金二万七千円とこれに対する利息三千円合計三万円を既に支払つていたので本案の訴訟において再審被告の主張を争つたが、福岡高等裁判所は再審被告が控訴本人尋問として述べたところの右三万円の返済を受けていないとの供述部分を証拠として前記の如き再審被告勝訴の判決をなしたのである。そして再審被告は控訴審の確定判決に基き別紙目録記載の土地、建物につき昭和三十年十月二十日熊本地方法務局八代支局受付第八〇六三号を以つて昭和二十四年十二月二十三日付売買による所有権移転登記を受けたが、その後再審被告が再審原告より貸金の返済を受けていたのにこれを受けていないとして裁判所を欺罔し前記の如く控訴審の勝訴判決を得たことは詐欺罪に該るものとして熊本地方裁判所八代支部に起訴せられ、審理の結果同裁判所より昭和三十四年八月三日有罪の判決を受けた。そこで再審被告は福岡高等裁判所に控訴したが同年十二月二十三日同裁判所より控訴棄却の判決を受け、同判決は昭和三十五年一月七日確定せられた。

(三)  再審原告は昭和三十四年名古屋方面に旅行し、昭和三十五年五月下旬頃帰宅したところ八代税務署が再審被告に対する国税滞納処分により別紙目録記載の土地を差押え、且つ同土地を測量していたので早速熊本地方検察庁八代支部に再審被告に対する前記詐欺被告事件の結果を問合せたところ前記のように再審被告が詐欺罪により有罪の判決を受け該判決が既に確定せられていることが判明した。

以上の次第で再審被告が裁判所を欺罔して勝訴の確定判決を得たことが詐欺罪として有罪になつた以上福岡高等裁判所による再審被告勝訴の判決には民事訴訟法第四二〇条第一項第六号乃至八号の準用により再審事由ありと思料するので再審の申立に及ぶと陳述し、立証として新甲第一号証の一乃至三、同第二乃至第八号証(但し同第五、七号証は各一、二)を提出し、再審原告本人尋問の結果を援用し新乙第一号証の成立を認めると述べた。

再審被告は再審原告の訴を却下する、との判決を求め再審事由に対する答弁として再審原告主張(一)の事実は認める。同(二)の事実中再審被告が再審原告より金三万円の支払を受けたことはこれを否認するがその余の事実は認める、同(三)の事実は不知であると述べ立証として新乙第一号証を提出し、新甲第一号証の一乃至三、同第二号証、第六号証、第七号証の一、二、第八号証の成立を認め、同第三号証の成立を否認し、同第四号証の不知と述べた。

二、本案における再審被告の請求並びに再審原告の反訴請求について、

(再審原告は再審の申立書に別紙目録記載の土地建物につき既になされている登記の抹消手続を求める旨の記載があるがこの部分は本案の反訴請求と解する)

本案につき再審被告は「原判決を取消す、再審原告は再審被告に対し別紙目録記載の土地、建物につき昭和二十四年十二月二十三日附売買による所有権移転登記手続をせよ」との判決並びに予備的請求趣旨として「再審原告は再審被告に対し金二万七千円及びこれに対する昭和二十四年十二月二十四日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え」との判決並びに再審原告の反訴請求を棄却するとの判決を求め、本案の請求原因並びに反訴の答弁として第一次の請求原因は前一の(二)に記載せるとおりであり、第二次請求原因として再審原告は再審が貸与した金二万七千円を返済しないので再審原告に対し貸金二万七千円とこれに対する昭和二十四年十二月二十四日以降完済まで年五分の割合による利息の支払を求める。第三次の請求原因として前記貸金が貸金業等の取締に関する法律に違反し無効であるとするならば再審原告は前記金員を法律上の原因なくして利得したことになるので右金二万七千円及びこれに対する前同一の利率による金員の支払を求める。再審原告の自白の撤回には異議があると述べ、立証として甲第一乃至第三号証を提出し、第一、二審における証人吉田国男、同永水清の各証言及び第一審並びに第二審における控訴本人尋問の結果を援用し、乙第一、三号証、同第四号証の一、二の成立を認め乙第二号証、同第五、六号証はいずれも不知、乙第三号証に対する証拠抗弁として同号証は再審原告より本件貸金の返済があつた場合に再審原告に交付するため予め再審被告において作成したものであるが再審原告よりその支払がなかつたので再審被告の手裡に残しておいたものであると述べ、再審原告は本案につき「控訴を棄却する」との判決並びに反訴の請求趣旨として主文第三項同旨の判決を求め、本訴の答弁並びに反訴の請求原因として再審原告が再審被告より昭和二十四年十二月七日以降同月二十三日まで五回に亘り合計二万七千円を借用したことはこれを認める。しかし、再審原告は約定の期限までに借用金二万七千円と利息三千円との合計三万円を返済しているので再審被告の控訴棄却の判決並びに再審被告の予備的請求棄却の判決を求める。また再審被告は福岡高等裁判所の前記確定判決により既に前記の如く別紙目録記載の土地、建物につき再審被告名義に所有権移転登記を経由しているので再審被告に対しこれが抹消登記手続を求める。尚再審原告は第一審の昭和二十五年八月十二日の口頭弁論期日において再審原告が再審被告に対し借用金二万七千円の支払債務担保のため別紙目録記載の土地、建物を再審被告主張の如き特約で売渡担保となしたことを自白し、また右金三万円の領収証は弁済当時再審被告が後日これを交付するというので受取らなかつたと自白したが右各自白はいずれも再審原告の錯誤に基くものであるから取消すと述べ立証として乙第一乃至第三号証、同第四号証の一、二、同第五、六号証を提出し、第一審における証人龝田優、同米村清信、第二審における証人村橋清輝の各証言及び第一、二審における被控訴本人(再審原告本人)の尋問の結果を援用し、甲第一号証中永水清名下の印影は認めるがその余の部分の成立を否認し、同第二号証の成立を認め、同第三号証の成立を否認すると述べた。

理由

一、再審事由の有無について、

再審被告が再審原告との間の福岡高等裁判所昭和二十六年(ネ)第四九二号土地建物所有権移転登記請求控訴事件について昭和二十五年五月七日再審原告主張の如く再審被告勝訴の判決を受け、再審原告が上告したが昭和三十年六月三十日上告棄却となり右控訴審の判決が確定せられたこと、右控訴事件における控訴人たる再審被告の請求原因が再審原告主張のとおりであり、右控訴事件においては再審被告が再審原告からその主張の如き金三万円の弁済を受けていないとの事実が認められて再審被告勝訴の判決を受けたこと、その後再審被告が控訴審の確定判決に基き別紙目録記載の宅地建物につき再審被告名義に所有権移転登記を経由したところ、このことが刑事問題となり再審被告は再審原告から前記三万円の弁済を受けていたのに拘らずこれを受けないとして民事の確定判決を受けたことが裁判所を欺罔して財産上不法の利益を得た詐欺罪に該るものとして熊本地方裁判所八代支部に起訴せられ再審原告主張の如く昭和三十四年十二月二十三日有罪の確定判決を受けたことはいずれも当事者間争がない。ところで成立に争のない新甲第二号証、同第八号証によれば前記控訴事件において再審被告は宣誓の上控訴本人尋問を受けその際再審被告が再審原告に貸与した金二万七千円と利息金三千円以上合計金三万円の弁済を受けていない旨供述し、この供述と他の間接事実とによつて再審被告勝訴の判決を受けるに至つたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。しかしながら公文書であるので真正に成立したものと推認される新甲第五号証の一、並びに裁判所より作成を命ぜられた鑑定書であるので真正に成立したものと認める新甲第五号証の二によれば、新甲第三号証(受領証)の作成名義人が再審被告の署名であることが認められるので同号証は真正に成立したものと推認される。そこで右新甲第三号証に、成立に争のない新甲第七号証の一、二を綜合すれば再審原告は再審被告より五回に亘り借用した合計金二万七千円とこれに対する利息三千円計三万円を昭和二十四年十二月二十五日再審被告に弁済したこと、そしてこれが受領証(新甲第三号証)を再審被告より受領したが前記控訴事件の審理中再審原告は右受領証の置場所を失念していたため証拠として提出できなかつたことがそれぞれ認められる。新乙第一号証は次の事実によつて前記弁済の事実を否定する証拠となし得ない。すなわち新甲第七号証の一、二に当審における再審原告本人尋問の結果を綜合すれば新乙第一号は再審原告が昭和二十四年十二月二十五日再審被告に金三万円を返済した際再審被告によつて作成せられた領収証であるが先に再審原告が合計二万七千円を分割して借用する際再審被告に差入れておいた借用証を再審被告において紛失したというので、これらの借用証が右金三万円の弁済によつて無効となつたことを新乙第一号証に記入して貰いたいと再審被告に要求したところ再審被告より再審原告が右記入をするよう言われた。そこで再審原告が作成名義人と宛名の箇所を空白にして別途に新甲第三号証を作成し再審被告の署名を得たので再審被告は不要となつた新乙第一号証をそのまゝ自己の手許に留め置いたことが認められるので再審被告が新乙第一号証を所持しているからといつてこれを以て前記弁済の事実を否定することはできないし、他に右弁済の事実を否定すべき証拠もない。そうだとすれば前記控訴事件において勝訴判決の証拠となつた再審被告の控訴本人尋問の結果は右金三万円の弁済の点に関する限り虚偽の陳述であるということになる。而して本件においてはこの虚偽の陳述自体が処罰せられた何等の証拠もないが再審被告が前記の如き詐欺罪の有罪判決を受け該判決が確定せられたことは民事訴訟法第四二〇条第一項七号、第二項に該当する場合と解する。なお当審における再審原告本人尋問の結果によれば再審原告はその主張の如き動機から昭和三十五年五月下旬再審事由を知つたものであることが認められるので、本件再審申立事件の記録に徴し右申立は適法の期間内に提起せられたものと認める。よつて再審原告の再審請求は理由がある。

二、本案の判断

再審原告が昭和二十四年十二月七日以降同月二十三日までの間五回に亘り再審被告より合計金二万七千円を借受けたことは当事者間争がない。ところで再審原告が第一審の昭和二十五年八月十二日の口頭弁論期日において右借用金二万七千円の債務担保のため昭和二十四年十二月二十三日再審原告所有の別紙目録記載の土地、建物を再審被告主張の如き特約で売渡担保となしたことを自白したことは記録(昭和二十六年(ネ)第四九二号事件、昭和二十五年(ワ)第六七号事件)に徴し明らかであるが再審原告は右自白は錯誤に基くものであるから取消すと主張する。しかしながら第一審並びに第二審における被控訴本人尋問の結果は措信し難く他に右自白が事実に反し且錯誤によるものであることを認める証拠がないので右自白の取消は許されない。そこで再審原告が再審被告に対する借用金二万七千円の債務担保のため別紙目録記載の土地、建物を再審被告主張の如き特約で売渡担保となしたことは再審原告の自認したことになるが、再審原告が約定期限前たる昭和二十四年十二月二十五日右借用金二万七千円と利息金三千円合計金三万円を弁済したことは既に前記一「再審事由の有無について」の項において認定したとおりであるので、前記特約は右弁済により失効し、再審原告は再審被告に対し別紙目録記載の土地、建物につき再審被告名義に所有権移転登記手続をなすべき義務がないことになり、この点について第一審が再審被告の所有権移転登記手続の請求を棄却したことは相当であり本案の控訴は理由がないのでこれを棄却する。

更に再審被告は第二審において予備的請求の追加をなし、若し再審被告の右所有権移転登記手続の請求が容れられない場合は第二次的再審原告に対し貸金二万七千円の返還を、第三次的に右金二万七千円の不当利得返還を求めているが、前記のとおり再審原告が借用金二万七千円と利息金三千円との合計三万円を弁済した以上再審被告の右新請求は理由がないことになりいずれもこれを棄却する。

ところで再審被告が福岡高等裁判所の前記確定判決により別紙目録記載の土地、建物につき主文第三項記載のとおり再審被告名義に所有権移転登記が既になされていることは当事者間争がないが、右登記は既に前記のとおり特約が失効している以上登記原因を欠く無効の登記であるので再審被告は再審原告のため右登記の抹消登記手続をなすべき義務がある。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 中園原一 厚地政信 原田一隆)

目録

八代市永碇町字永碇九百七十二番

一、宅地 三十二坪

同所九百七十三番の一

一、宅地 百七十坪

同所九百七十五番

一、宅地 六十四坪

同所九百七十三番の二所在、家屋番号同町百二十六番の二

一、木造草葺平屋建物置一棟、建坪二十四坪8合

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例